守破離::1Q59

幸福とはココロの状態にある

ちゃぶ台返し

たまたま仙台駅で元同級生から声を掛けられて
アルバイト代が入ったから地下でご飯食べようと
誘われて階段を降りた。

ボクは専門学校に通っており、かれは宮城県庁で事務の
手伝いをしながら公務員をめざしていた。
かれの父親仙台市営バスの運転手。
その関係から公務員になれば楽できるだろうという
人生設計を描いていた。

民間バス会社と比較すれば収入は倍で休みは多い。
しかも働く時間は短くて福利厚生は整っている。
仕事内容は同じにもかかわらずだ。

じつに不公平なのが世の中だから公務員になれば
クビになることはないし、いいことづくめ。
彼はバスの運転手ではなく地下鉄関連の職を
希望して公務員試験を受けたものの最終段階で
つまずいたのを悔しがっていた。

彼の語る言葉に同意しながらもボクの頭では
公務員試験を通れる見込みはないから興味すらなかった。
就職して働くのはすぐそこまで来てるのに未来を
想像することができずにいた。

いまになって思えば、報酬はべつにして公務員の
ような仕事のありかたは外国ではあたりまえ。
周囲の顔色をうかがったりして残業したり
会社の意のままに忠誠をつくすみたいな生き方は
この国ならではの特殊現象にすぎない。

労働契約によって会社員として雇われてる存在。
個人と組織はあくまで別物。
自分の時間を組織に売ってるわけだ。
「お値段以上」の価値をやるやらないは自由意思。
どこらへんに適正価格を置けばいいのやら。

自分で自分に値札を貼れるようになってください。

日本的生き方に疑問を持たない人間は出世する。
おかしな我慢大会なのだが我慢するのが習い性に
なってるから気にもとめず集団のなかに埋没。

ベースになるべき根本部分の問題。

問題解決すべき地位の人間はまったく気づいてないのか、
気づかないふりをしてるのか、どうしようもないと
あきらめているのか、能力が備わっていないか。エトセトラ。
いずれかではなくていずれもあてはまるのだろう。

どうにかしたくてもどうにもできない。

陸に上がりたいけど深海のほうが慣れてる。
さんざん迷う。光を浴びて暮らしたい。
環境適応のすえに陸上生物になる道は閉鎖。
時間経過するうち体まで変質。
魚なのに魚とはおもえぬ姿形。

深海魚「シーラカス」誕生。

ソバを注文して待つ間に県庁のあれこれを話してくれた。
封筒に書類を入れて糊付けするような作業ばかりで
うんざりだと不平不満の愚痴に終始。
ボクは仕事をしたことがなかったし、人生設計なんて
まったく考えておらず惰性で生きてるアホだった。

そもそも10年後に自分は生きているんだろうか!?。

安定した職にありつき職場結婚して子宝に恵まれ
家族のために頑張るよき夫であり父。
平凡なステレオタイプ。

う〜ん。

やってきたソバに髪の毛が入っていたらしく
彼は怪訝な顔して店のひとを呼んで交換するように
命じ、ぶつぶつ店の悪口を言い始めた。

そんなことおかまいなしのボクはソバを美味しく
汁までのこさず平らげた。出してもらったものは
残さずたべなくては作ったひとに失礼になるから
よほどのことがなければ全部完食する。

あのとき、ボクのソバに髪の毛が混入してたとしても
髪の毛をよけて美味しく食べたとおもう。
たかが髪の毛ぐらいでなんであんなに怒るのか
理解に苦しんだ。そんなのどうでもいいじゃん。

東北電力ビルの後ろにあるラーメン屋。

ラーメンの熱い汁も残らず飲み干すから汗がだらだら
顔から垂れる。だからラーメンを注文することはまれ。
いつものごとく塩焼きそばと老酒をオーダー。

狭い店内はキレイとはいえないが我慢の範囲内。
ときどき時間があれば来店していた。

孵化したばかりだとおもうが、カウンターの上をちっちゃいのが
運動会して遊んでいる。7匹ほどの赤ちゃんゴキブリ。
こういう店は油っぽいから生息してるんだろうが、
それにしても元気だ。勢いがある。若さにあふれてる。

老酒をグビッとやりながら観察。

同級生のあいつならば激怒するだろうが、ボクは
いたって平気の平左。これまたいつものごとく
美味しくいただいて店をあとにした。

しばらくして店を再訪したが店は消滅。
やっぱり客商売は掃除が基本。
長持ちさせるにはキレイ好きでなくちゃあ。

コント55号坂上二郎さんにうりふたつの同僚。

気にいいやつなのだが、車プラス電車の遠隔通勤のせいで
一緒に飲酒する機会はあまりない。

ひとの悪口は絶対に言わないのが信条とおもえるほど
心のブレーキを完備している。
それでも堪忍袋の尻尾が切れてしまい上司との
不仲に加えて東京長期出張によるストレスでヒートオーバー。

彼の口から何かがボクの汁物に着地。

ボクは見てないふりして話の腰を折らないように
注意しながら汁物を残さず吸い込んだ。

食べ物以外でもいちいち細かいミスを指摘して
妙にはしゃぐ会社員をみかける。
発見した本人がすぐ直せばものの数秒で済むのに
相手に恥をかかせて自分の権威をみせびらかす。

鬼の首を取ったつもりなんだろうがそれで後はどうなる。
なんでそんなに減点主義におちいるのだろう。
べつに死ぬわけでもなんでもないのにさ。
ボクにはまるでわからない。

相田みつを先生を見習え」
にんげんだもの

そこにいたの。盗み聞きしてたな。

そうかあ。
人間だもの。一言で片付ければそこで終了。
人は人。ボクはボク。ひとのことはどうすることもできない。
よって、考えるだけ無駄。
考えれば考えるほど世間についていけなくなる。

「そうそう」
「ユーモアの出番」
「シリアスになれば生きづらい」
「ままならないのが世の中」
「他人なんてどうでもいいじゃん」

どうでもいいけどね。
嫌な奴が視界に入ってこなければ。

「早くトップリーダーになれよ」
「そうすれば嫌味なやつを叱れる」
「バカヤロウ」
「みみっちいことでウダウダ騒ぐな」
「机をバシッと」

ちゃぶ台ひっくり返しだね。
ご指摘はいちいちごもっとも。
知り合いは車のトランクにバットを常備。
むしゃくしゃしたときは、嫌なやつの名を叫んで
思いっきりバットで地面を叩くんだって言ってた。

みんな隠れたところでストレス解消してる。
すっきりするかどうかはナゾだが、すくなくとも
なにもやらないよりはマシ。

ボクシングジムのサンドバックを蹴ったり叩いたりするのも
すごくいいらしい。口だけもんもんしてもしょうがない。

「その通り」
「そろそろやるか」
「アレ」
「たまってるでしょう」

あれってなにさ。

 

古武術からの発想 (PHP文庫)

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