守破離::1Q59

幸福とはココロの状態にある

二等船室の曼荼羅

蛍の光、窓の雪。
歌詞はなくてインスタルメンタルが聞こえる。
デッキで夜景を望みながら出港。
なんとも切ないがすぐ大浴場に向かう。
ロッカーに荷物をしまい素っ裸。
しめしめ。一番乗り。

大きな湯船がふたつ。
ゆっくり体を沈める。天国だわい。
仙台港発苫小牧行き。太平洋フェリー

小学校卒業式では蛍の光に感動して大人になっても
この感動は一生覚えてると確信したものの
蛍の光メロディー以外いまいずこ。
ひとりずつ名前を呼ばれて元気よく返事。
校長先生から卒業証書を手渡された。
同級生ならびに担任との卒業写真は引越しのときに紛失。

夏の蛍に冬の雪。季節の移ろいが表現されており、
子供ながらに哀愁とは別れにあるのだなとおもった。
逢うは別れの始まりなり。
スタートがあれば、エンドがある。
あれから幾年月。

卒業式と入学式はセット。
組織の入社式までこぎつければあとは個人的な式事だけ。

飛行機だとこうはいかぬ。船旅ならでは。
海上にてお湯につかる。しかも大浴場。
窓がついてるので外を眺められる。
朝風呂だと東の海から登る太陽を望みながら入浴できる。
極楽。極楽。

さっぱりしたのでレストランで食事。
それなりの定食を腹につめこむ。
弁当でも買ってくればよかった。
帰りはあらかじめなにか用意してこよう。

二等客室は大部屋。床に等間隔で枕とシーツと毛布が設置。
ごろ寝が基本。
とりあえず場所をチェック。
こんなんじゃイヤだというかたは部屋を変更可能。
どうせ船のエンジン音で寝れやしない。
横になれればそれでよし。

ふう。

窓側通路には各所にソファーというかイスがあるので
ボンヤリするもよし。外のデッキで風にあたるもよし。
夜8時に出航してお昼すぎに到着。
なにもせず船に揺られて移動するだけで気は晴れる。
大型船なのでまったくというほど揺れない。
午前中には船長の案内でブリッジ見学があるはず。

ラウンジで演奏会がある。
ボーカルにマリンバという楽器らしい。

カントリー音楽を歌う知り合いはこの船でアルバイト。
なんともいえない貴重な体験で良き思い出になったという。
そりゃあそうだろう。
ともすれば生涯を左右する出会いが待ってるかもしれないが
乗客で多いのは遠距離トラックの運転手。
かれらは慣れきってるから船は寝るだけの場所。

東京あたりから北海道まで荷物を運ぶ。
高速道路や一般道を常に走る仕事。
せわしない渡り鳥。
いや、トライアスロン走者。
彼らが見てるものは我々とはどこが違うんだろう。
ほとんど同じ2点を行ったり来たり往復。
雨の日も雪の日も休みなく走る。
ラジオが友達なので世情に長けた情報通。

無料でコンサートが楽しめるなんてお得。
生演奏の最中に飲み物を巡回販売。
ワインでも注文しようかなあ。

今頃は、金華山あたりを航行中かな。

三年続けてお参りすれば一生お金に不自由しない。
野生の鹿の住む小島に神社が建立されている。
ご神体は鹿だとおもう。
毎年、鹿の角切りが恒例行事。

奈良国立博物館にて「春日鹿曼荼羅図」というエキゾチックで
いかにも霊験あらたかな軸を拝見したことがある。

真ん中に鹿が描かれ、鹿の背には鞍がかけられ、
そのうえに榊かなんかの枝がはえて枝の先には
数体の菩薩像。背後には春日山。下部には赤鳥居。

奇妙な神仏習合なのだが、妙に心に留まった。

春日山じたいが信仰の対象だから山を住処にする
バンビは神の使い。さらに仏像までアドオン。
羊羹のうえにインドのお菓子を乗せたような按配。
和と印の融合。

クドイ。じつに濃厚だが、好きな人にはたまらない。
仏教が地場の神さまを取り込んでしまった。
吸収された神道のほうはだまって見過ごしたのであろうか。
やられ損という気もしないではないが、
奈良期というのは怪しい魅力に満ちている。

曼荼羅は、多種の仏が集まった寄り合い。
密教あるいは仏教の世界観が組織図として表わされている。
幹部の仏たちみんなで仲良く力を合わせましょう。
っていうお披露目なんだなあ。

コンサート終了。
いつも演奏会があるわけではない。
あくまで船会社のご好意によるサービス。

仏教の力で国を収めようとした聖徳太子
ところがうまくいかずに夢殿にこもってしまう。
夢殿のなかでドリーミング。
春日鹿曼荼羅などを掛けて仏に助けを求め、
いつしか聖徳太子の願いは東大寺大仏となって結実。
大きいものにあこがれるのは古今共通。

国が傾くほど巨費を投じるなんてとんでもないが、
後世になって大勢の観光客を集めることになろうとは
想像だにしなかったよね。
なにが幸いするか分かったもんじゃない。

マンダラは何の役に立つかと言えば、
人を集めて組織する念を発する。
念は、信念となり念力に変質。
人間を動かすことで働きになる。

壁にぶら下げるだけではなんもならない。
実際にマンダラ登場人物を育てるのが組織化。
大仏造営にかかわった行基などは曼荼羅を地でいった。
マンダラモデルを縦横無尽に使いこなした。

バイエルン国王であったルードヴィッヒ二世は、
楽聖ワーグナーに心酔するあまりパトロンとして豪奢な
お城をつくりあげた。ノイヴァンシュタイン城。
大仏とおなじく国家の財政を食いつぶすほどの浪費。
現在に至っては観光資源として大いにうるおってる。

「春日鹿曼荼羅」にもどる。
文殊、釈迦、薬師、地蔵、十一面観音の五体。
セレクションの意味は思いつかない。
なんで十一面観音というキメラが混じってるんだ。
首謀者はこいつだなあ。

バンビにかぶさってグループで犯している。
いやらしい。スケベ。動物を狙うなんて。変態。
後背には黄金の円相がまぶしい。
あたらしき門出。

インドから中国を経由してきた偉い方々が揃いもそろって
奈良ゆかりの聖獣を手ごめにする。
強い者が弱い者を支配する構図。
言葉を発すことができないバンビはなすがままにされる。
あまりに無体であるが、バンビのほうから手招きしたのかもしれない。
どんなものでも受け入れてしまう懐の深さを感じる。

赤い鳥居をくぐれば偏見や差別ない世界。
神社は母性なんだろうか。

神道仏道が合体して誕生した奈良ミステリー。
まったく異質な信仰をひとつにまとめた強引。
日本人とインド人のハーフ。

神道には仏像のようなフィギアはみあたらない。
よって偶像崇拝しづらい。
バンビのような動物を拝むのは気がひける。
人間の形をしたものでないと説得力をもたない。
それでもバンビは捨てられない。
矛盾と不条理にあえぐ。もだえる。
思案のすえに、とうとうブレンドしちゃった。

奈良文化の分かりにくさの根本原因は、
日本古来と渡来をミックスしたからだとおもう。

大型船の推進力が伝わってくる。
北の大地を目指して突き進む。
映画室では「ピーターパン」が上映されている。
ジョゼッペ・トルナトーレ監督「海の上のピアニスト」ならばいいのに。
船で生れ、陸にあがることなくピアノを弾き続けた男の物語。

三陸海岸に点在する明かりが視界に入る。
大船渡陸前高田のあいだにある広田湾。
中学生のとき叔父さんに連れられて家族と船釣り体験。
ホヤ養殖イカダのあたりでカレイやアイナメが面白いように豊漁。

ワカメと殻付きホタテをわんさか頂いてきた。

はじめてゴカイをつかんで針に通したとき、
船主である縁戚のおやじさん曰く。
「はじめてなのにゴカイを容赦なくつかむとは」
「将来は大物になる」
「俺の見立ては当たる」
予言は外れてしまったけれど。

大物になりたいと思わなかった。
どうすれば大物になるのか見当つかなかった。
周囲に大物は存在しなかった。
三つ打破しておれば、今頃はれっきとした大物。
二等船室に転がってることはありえない。

ゴロ〜ン。雑魚寝。魚市場に並ぶマグロ。

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