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ミニマリスト

猫のつぶやき :: 生きてるだけで尊くありがたい

金庫破り

創作

ちょうどグミの実が熟れて食べごろ。
あの酸味はもう二度ともどらない。
民家もろとも海の藻屑に化してあとかたない。
残されたコンクリート基礎が往時をしのぶ。
なんてこった。こんちくしょう。

宮城県沖地震の当日、予知というか予兆を感知。
早朝のカラスの鳴き方が尋常でなかった。
地震起きるかもしれない」
真面目な顔して両親に伝えた。予測は見事的中。
あれが最初で最後の地震予知だった。

グミの木があった横を通りすぎる。

真っ赤に着色された金属製タンク。
ガソリンか軽油を入れる容量18リットルぐらいのサイズ。
それにプロパンガスのボンベ。小さいのから大きめのものまで各種。
数え切れないほどの漂流物が砂浜に散乱。
見渡すかぎりどこまでも続いている。

チャールトン・ヘストン主役「猿の惑星」では自由の女神像
半分砂浜に埋まった映像があったように記憶してる。
映画ではなくて、現実に自分のまえに広がっている。
この世のものとはおもえない目を疑うような光景。
実際に目の当たりにするなんて感慨無量。

人っ子ひとり見えない。

波が砂を洗う音がするだけ。ときおり、上空をヘリコプターが
けたたましい唸りをあげて砂浜に沿って飛んでいく。

津波に洗われたせいで砂浜は美しい。
普段は荒波が打ち寄せ、色んな漂着物が混じるから決して
きれいとはいえないのに別世界のようだ。

津波漂着物は最近まで使われていた物資なので
持ち帰れば使えそうな代物ばかり。
もちろん塩水や衝突のせいで大半は使用不能。
それでも見た目は現役そのもの。

津波現場をほっつき歩くのがクセになった。
すこし内陸に入った集落は想像を絶する惨状。
しっかり網膜に焼き付けられている。
たぶん生涯忘れることはないだろう。

防風林の松は根元からひん曲がり、枯れはじめた。
壊れた防波堤のすきまから砂浜に入れば
なぜか南国海岸でくつろいでる感覚。
いつもの仙台湾とはうってかわっておだやか。
優しく包んでくれているのだ。

海水に浮かんでプカプカ運ばれたものたち。
ひとつひとつチェックしてひたすら歩きまわる。
不謹慎は承知。
どうせゴミとして埋め立て処分場へ行くだけ。
宝探しを兼ねた所業。

腰掛けて一服する。極楽浄土に迷い込んだみたい。
ひとの手を離れた道具や容器が擬人化して見える。
人間の苦役から解放されて微笑んでる。
みんな嬉しそうだなあ。

津波が発生しても、海岸線付近に人間が住んでいなければ、
あっという間に自然回復するだろう。
人間のかかわる人工物は流失しないから津波があったことさえ
確認不能。
大量のゴミはすべて文明社会のせい。
すべて人間がつくりだした副作用。

天変地異に見舞われて気づいた。
ほとんどの人はゴミに意識はむけない。

諸行無常
あらゆるものは生々流転する。
いくら大事でかけがえのないものであっても
すこしずつすこしずつ酸化してやがて滅びる。
執着するのはしょうがない。
執着してしまうのが人間なのだ。

地球に人間が存在しなければ、津波があろうとなかろうと
問題にならない。問題という概念さえ現れない。
人間の営みのせいで人間以外の生物は迷惑してる。
迷惑どころの話ではない。
これらのゴミを製作するためにどれほど地球環境を
犠牲にしていることか。考えれば考えるほどゾッとしてしまう。

たいした戦利品はみつからない。
そろそろ撤退するかな。

堤防の上から仙台空港方面をながめる。
大小ふたり組がこっちへ向かってきた。
外国人のようだ。

なにやら話しかけてきたので挨拶。
ブラック・ホークというヘリコプター部隊に所属してるらしい。
航空母艦が停泊してるとかなんとか。
英語は不得手なので返答に困る。

とっさにリドリー・スコット監督の映画「ブラック・ホーク・ダウン」は
グレートであった旨を手振り身振りで伝える。

レインマンダスティン・ホフマントム・クルーズ。あるいは
スケアクロウジーン・ハックマンアル・パチーノ
さっきのペアは異国にて知り合った仲良しなんだろうか。
映画好きはすぐに映画を引っ張り出してしまう。
帰宅したら旅をテーマにしたロードムービーがみたい。

ジーン・ハックマンといえば「ポセイドン・アドベンチャー」。
新年を祝うパーティーのさなか大津波に襲われた豪華客船。
船は完全にひっくりがえってしまった。
必死のサバイバルがスタート。
めぐりあわせたグループの指揮をとることになった神父が
ジーン・ハックマンだった。
ひとくせもふたくせもある連中と付き合うはめになる。

まさか地元に大津波が押し寄せるとはなあ。
東日本大震災の約半年まえ。

どういうわけか大きな海亀が二匹。
波打ち際で息絶えていた。
なにを血迷ったのか。こんなところまで北上するとは。
一匹ならば方向を見あやまることもあるだろう。
おかしな現象があるもんだとおもった。

津波の予兆なのか分からない。

もし、あそこで丁重に海亀を供養したとすれば
津波の規模や時期に変化があったかもしれない。
こういうことを気にしだせばきりがない。
なんでも怪現象と結びつけてしまう。

グミのあたりを徘徊してから帰宅するかな。

うわあ。
黒百合が群生して精をきそっている。
小高い丘はユリのオンパレード。
圧巻。
いぜんはまったく気がつかなかった。
触れば花粉がついてよごれる。
ここら辺りってなにかいわくありげな場所なんだろうか。
思いだしてみるが心当たりはない。

小粒のタネが茎についている。
これがこぼれて繁殖したんだ。
完熟したときに採取しにくるとするか。
庭に植えておけば花を楽しめる。
あとなにか持ち帰れそうな植物はないかしら。

木枠にすっぽり収まった物体を発見。

金庫じゃないか!。
ヤッホウ。
飛び上がって狂喜したものの重さはかなりある。
三十キロぐらいか。
家まで運べば、こじ開けられるはず。
なんとか道路までゴロゴロ回転させて移動させた。
車のトランクに持ち上げられるかどうか。
試練。
懸命に力を振り絞って完了。

そうとう古そうな金庫。
半世紀近くたってるみたい。
おそらく空っぽのような気がするが、なにか金目の
ものが入ってないともかぎらない。
捕らぬタヌキのなんとやら。

自宅に着いて家のなかまで運ぶのがまた一苦労。
金庫破りを誰かにみられたらヤバイ
それに外だと破るときに音がもれでる。

石材を砕くノミのような道具を使い、金槌で裏側を叩く。
こういう道具を持っていて助かった。
音が出ないようにボロ布を巻いて慎重に掘削。

そばにガソリンスタンド勤務のひとがいて
副業として近所に灯油を販売してた。
可燃ゴミはすべて畑で自己処分してたので
その人からドラム缶を譲り受けて焼却炉に改造。
ドラム缶の鉄板をはがせばいいだけなんですが、
この経験が役立ったのであります。

しかし、ドラム缶の際は振動のせいで耳がおかしくなった。
外耳炎になって耳鼻科のお世話とあいなった。
自分のような弱っちい者に穴あけ作業はむかないから
もう金輪際やることはないだろうと思っていたのだが
どのような運命が待ち受けているかわからん。

金庫の場合、切り取る面積がすくないから耳には響かない。

鉄の薄い板に裂け目が入る。
なかはモルタル。その奥はさらに鉄の薄い板。
貫通するのにわりかし時間を要する。
休み休み金槌をふるう。
指にマメが出てきた。
ああ。シンドイ。

金庫破りは大変だあ。

札束か宝石があれば生活の足しになる。
ウキウキしながら仕事続行。
火災に遭ってもなかは無事のように頑丈なんだな。
これがもし、鉄板の厚さが倍以上あれば歯がたたない。

疲れる。クタクタ。手がしびれてきた。
誰かに手伝ってもらい、代る代るだといいのに。
自分が取り分を独り占めするんだから文句はいえない。
あともうすこし。
ガンバレ。ファイト。

ケチで名をはせた演歌歌手の金庫が洪水で流され
なかには現金一億円眠っていたことあった。
自宅に大金を隠しておくなんて無用心だけど
あるところにはあるんだねえ。

お金は置いておいてもなんにもならない。
入った分だけ出すように動かすことで生きてくる。
なるべくなら広範囲に動くのがお金にとっては本望。
自分のところに退蔵したってはじまらない。
人の動き、社会の動きを活発にするためにお金は存在。

夜な夜な金庫を開いて札束をなでるのが趣味。
そういうタイプって。いるんですよねえ。
守銭奴っていうのかな。
お友達になっておすそ分けに預かりたいが
お金しか興味ない人の話題はマネーに収束しがち。
頭のなかまでお金でいっぱい。

対象はなんであれコレクターのひとは可愛いものですね。
集めたブツが多ければ多いほどスマイル。
小学生のころ、記念切手収集してたから気持ちはわかる。
しだいに飽きちゃってぜんぶどこかへ霧散。
継続って力だと思います。

切手は図柄を楽しむのはもちろんだけど、
コミュニケーションを補助するために生まれた。
人間関係を取りむすぶ手紙や葉書に貼られる。
ちゃんと使って使命をまっとうさせなくちゃ。

そうでしょう!?。

 

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