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ミニマリスト

猫のつぶやき :: 生きてるだけで尊くありがたい

ほんとうの自分はどこだ

創作

日本列島を南から北まで縦断していると地図でみるのと異なり広い。
ライスとミソスープだと身がもたない。
さっき馳走になったばかりなのにもう空腹。
今夜の宿を物色せねば。うだうだ迷ってもはじまらないので
ランダムに玄関チャイムを鳴らして歩く。

まず最初は片言の日本語で自己紹介。

あのお。はじめまして。
わたしはアメリカ合衆国から日本にやって参りました
クリスと申します。ひょんなご縁からほんとうの日本に
興味をいだきまして歩いて旅をしています。

日本人はとても親切で行く先々でお世話になってます。
突然のことで驚かれたでしょうが、一晩泊めてもらう
ことはできますでしょうか。
ベッドは必要ありません。
雨風をしのげるスペースさえあれば充分です。

お願いしますです。

宿を提供してもらったお礼といってはなんですが
わたしの種族に伝わるものを作ってさしあげます。

「あなたアメリカ人なの」
「そうは見えないけど」

インディアンのナバホ族です。
身分証明をお見せしましょう。
ついでにパスポートを確認してください。

「ふ〜ん」
「どうせ自分ひとりでひまを持てあましてる」
「入んなよ」「カモン」
「ちょうど夕食の準備をしようと思ったところ」
「出来上がるまでくつろいでいて」

日本のビールはコクがあってデリシャス。
腹がすいてるので体中にしみこみます。
ゲブ。
失礼しました。ソーリー。

「こんな食いもんでいいかな」
「ありあわせでこしらえた手料理」
「遠慮せずに食えるだけ食って」

「インディアンといえばジョン・ウェインが出てた西部劇」
「騎兵隊が威勢よくラッパ吹いて突撃〜〜って」
「あういうの流行らなくなった」

「もともとあんたらの土地なのにおかしいよね」
「西洋人の身勝手で悪者に仕立てられて」
「非抵抗な先住民にひどすぎる」

もう大昔の出来事ですから。
終わったことなのでどうしようもありません。
恨んだからといって過去は帰ってこないので。
それより煮物に入ってるラディッシュのぶつ切り。
魚をミンチした練り物とマッチしてます。

「オデンというんだ」
「あいにく牛肉の買い置きはなくてさ」

「クリス。ほんとうの日本は見つかったかい」
「そういうのってこっちが聞きたいぐらい」
「ほんとうのアメリカとかさあ」
「ほんとうの自分とか」

見るもの聞くものすべて本国とは違います。
神社の入り口にある赤い門やおっかない顔した座るドッグ。
太めに編んだロープをゆらせば軒先の呼び鈴が鳴る。
とてもエキゾチック。

玄関チャイムを鳴らして神さまに合図する。
さらにパンパンと両手まで打ち鳴らす。
神さまに対するエチケットがルールとして確立。

シュラインのまえを通りかかったら必ずお参りしました。
どこにでも神さまの家があるんです。
ほとんど無人で神さまだけいらっしゃる。
いえ、いるのかどうか定かではありません。

「なるほどなあ」
「シュラインとテンプルの違いさえ考えたことなし」
「ほんとうの脳天気」
「目は見えるのに、なにも見てない」
「クリスに質問されても答えに窮する」
「自分は日本人なんだろうか」

ハハハ。
ごく普通の態度です。みなさんがそのように答えます。
考えないのが日本人の美徳。
日本では考えるとなにかしら不具合に見舞われる。
あるいは考えなくても生きるのに支障がない。

それに日本人はテレパシーの持ち主です。
言葉に出さなくとも言いたいことなどがわかります。

「たしかになあ」
「空気」「以心伝心」
「言わずもが」

わたしの国では言葉にできないものは存在しません。
はっきり意思表示しないと生きていけないのです。
「美徳」なんていう言葉はとても日本らしい。
自己主張せず控えめで暮らせるのはベリーグッド。

ほんとうの自分とか偽物の自分なんて区分けはナンセンス。
あなたはあなたでしかなくて、皮膚をつねれば痛い。
実際に存在する寿命付きの実態でしかありません。

どのように生きればいいのか。
どのように生きたいのか。
現実行動に移せるのか。
現実行動に移せないのはなぜか。

それだけのことだとおもいます。

「ガ〜ン」
「グサッと胸に突き刺さった」
「見ず知らずの通りすがりで」
「しかも外国人から痛烈な一撃」

ゴメンナサイ。許してください。
気を悪くさせてしまって。そんなつもりではありません。
つい口がすべってしまいました。

「インディアンは嘘つかないもんなあ」

それはそうと。約束の件。
リュックに採取してきた材料が入ってます。
野生の藤ヅルか葛ヅルかアケビのツル。
野鳥の羽。
これだけあればいいんです。

夜になって寝静まるとどこからともなく侵入。
良いやつは小さいので悪いやつのサイズにあわせて
植物のツルをまん丸に仕上げます。
周囲に野鳥の羽をとりつけてしっかり固定。

そしてこれが肝心。
われわれに古くから伝わるおまじないを
吹き付けて霊力が発揮できるようになります。
悪いやつに悩まされる場合に使ってみてください。

ドリームキャッチャー」と云うんです。

ふう。無事に一日終了。
ナイスなご主人に歓待してもらい助かった。
明日もこうだといいのに。

車庫にクモの巣がかかってた。
女郎蜘蛛というらしい。
昆虫でもなんでも日本人から名前を聞いて簡単に由来を
説明してもらえば、この国がもつポテンシャルというか
繊細さにおどろいてしまう。

色合いといい蜘蛛の名にぴったりでないか。
ドリームキャッチャーは悪夢を捕まえるが、
女郎蜘蛛は吐き出した糸にかかった虫を
選り好みせずにぐるぐる巻きにしてエキスをいただく。

まさに商売女ならではのプロ根性。

やってきた男がいけ好かない
ゲス野郎だとしても相手しなくてはならない。
お金のためと自分にいいきかせていても体を売るのは
並大抵ではつとまらない。

いずれにせよ、宿を提供してもらってホッとした。
ここに来るまで何十人かの日本人と会話。

自分のこと家族のこと属する職場のこと
住んでる地域のことなどに焦点を当てて
一方的にしゃべりまくるタイプが印象。

こちらの存在は眼中に入ってない人が目立つ。
自分のことを分かって欲しくて仕方ないみたい。
セルフカラーを表にだすのを抑圧されてるのか
あるいは自己規制してるので、これ幸いとばかりに
マシンガントークしてくる。

宿泊代夕飯代だとおもって相槌を入れつつ傾聴。

徒歩旅は肉体的につらいが、ゆっくり時間かけて
各地をめぐり、こうして人の情けに甘えながら
生身の相手から屈託ない話を伺うのが醍醐味。

そのためにはるばる日本にやってきた。
出発前は不安だったが、望みを満喫して満足。
旅は、人生の縮図なんだから帰ったのち糧にしなくては。

女郎蜘蛛はきれいだった。

女郎商売とてある面では人生の縮図かもしれない。
男が衣服を脱いで女と対峙すれば本性丸出し。
女体目当てであっても相手の女をひとりの人間として
優しく愛撫するか、それともひとりよがりで自分さえよければと
乱暴に扱うかで男の器量がにじむ。

一夜だけとはいえ濃密な人間関係。

旅のように短い期間ならば女郎商売は可能だろうが
本業化して半年一年と長期にわたるほどリスキー。

見知らぬ相手を家に泊めるのだって双方に危険を伴う。
同性だから安心というわけにはいかぬ。
ゲイかもしれないじゃないか。

意気投合しアルコールも手伝ったりすれば異性しか
興味がないと思っていたのに、急にそうでもなくなって
同性に手をのばさないとは限らない。

その気はなくてもふとした拍子に目覚める。

 

ドリームキャッチャー

ドリームキャッチャー

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