守破離::1Q59

幸福とはココロの状態にある

種をまく人

草むらの葉っぱで生きるグリーンでスリムなキリギリス系。
地面で暮らすブラックでずんぐりしたコオロギ系。

どちらも周囲にとけこむ保護色。

丈夫なのはコロちゃん。
10月半ばなのにまだ異性をもとめてがんばる。
恒温動物のように体温を一定に維持できないから
冷えは身にこたえる。どうにか遺伝子をバトンしたい本能。

マッチ売りの少女みたいでけなげです。

道ゆく人々はあたしなんて無視。
おそとにたたずんで手がかじかむ。
一本とりだして火をともす。

暖かい。すぐに煙とともに消える。
また一本。マッチを擦る。
炎になにか見える。何かしら。
眠たい。まぶたが重たい。

眠っちゃダメ。空耳がこだます。
グラスホッパー君。
どうしてこんなとこにいるの。
あたしが眠らないように見張ってるわけ。

「そのまま眠ってしまえば、もう目は覚ませない」

ご親切にどうもありがとう。
マッチがあるうちは平気。
行きかう大人はいっぱいなのに。あたしには目もくれない。
みんな自分の目的地にせかせか急ぐ。
点から点へ移動。直線ライン。

帰る家があって、待ってる家族がいる。
こういう日にはクリームシチューかしらね。
鍋から湯気。コトコト。コトコト。

また一本。マッチを擦る。

もう限界。我慢できそうにない。
名前を教えて。春になったら再会しましょう。
あたしは歌い、あなたはバイオリンを奏でる。

「空にきらきら、お星さま、みんなスヤスヤ眠るころ」
「おもちゃは箱を飛び出して、踊るおもちゃのチャッチャッチャ」

田んぼに残されたワラに火が放たれて
白い煙が風にながされる。特有の匂いがはなをつく。
この時期の田園風景。豊穣のよろこび。

バルビゾン派の農民画家フランソワ・ミレーが人気。

京都東福寺のお庭を設計した重森三玲
四角い市松模様を配した独特のつくり。
三玲とは、尊敬するミレーから名前を拝借したらしい。

ありふれたものは素通りしがちだが、奇をてらうより
身近でそこらのものをテーマにすえたほうがかえって
長持ちするのかもしれない。

どこまで思いいれを持続できるかどうか。

「一途」

目移りしないで愚直をつらぬくのは難儀。
まわりをキョロキョロして流行を検索購入してしまう。
似たりよったりばかりが巷に陳列。

わざわざ冒険する必要はないけど、常識をふまえつつ
自己主張したい。ごく一般的な健常行動。

ふう。猫舌ながら熱いコーヒーは旨い。

ピンポーン。

は〜い。玄関に客が訪れた。宅急便かな。
笑顔とコメントをおいていくヤマトガール。
にんげんが出来てるというか。
わずかでもプラスアルファーが嬉しい。
心づけをしたくなっちゃう。

二十歳のとき・・・

昼間はフルタイムに働いてたのに、なぜか仕事がおわったあと
日本通運まで出かけて伝票インプットの手伝いをやらされた。
おまけに残業代なんてゼロ。

んでも。若さのゆえか苦にはならずに雰囲気を楽しんだ。
まだ仕事の右も左もわからず、
会社の人間関係なんてまるで無知。
与えられた経験はどれも新鮮で飽きることはなかった。

ひとりっこで根が小心者なので命令されるままに
一所懸命やるだけで精一杯。
なにも考えないでやるべきことをこなす。
いまになってみればとても幸福だった。

理解してしまえばつまらなくなる。
わからないうちが華。
もちろん。わかったといってもたかがしてれるが、
おおまかに全体を把握できれば、細部は二の次。
どうにでもなる。

自宅の庭は植木屋さんの手による。

岩ばかり配置され、よほど岩に固執したのだろう。
樹木は常緑樹。例外はモミジ。
変化にとぼしいマッチョガーデン。
カラフルなアクセントは念頭にない業者。質実剛健

けれども、アップデートかけるのはめんどう。
他者が製作したものは尊重したい。
これはこれで生かせばよい。

深山幽谷のイメージ。

こんもり山型に刈りそろえる。
植物とはいえペットのようが気がしないでもない。
小さなトカゲたちがウロチョロ。
おまえたちの住処にはぴったんこ。
隠れるすきまにことかかない。

昔の男は松が好み。
お城のふすまには図太いどっしりした松が鎮座。
武家のシンボルとして強さをアピール。
狩野派の描いた樹木の特徴だよね。

いつも凛々しくそびえる山をおもわせる。

遠くからなにか近づいてくる。
しだいに大きく輪郭はっきり。アレはもしや。
パッパカ。パッパカ。パッパカ。

背後にそびえるは霊峰富士山。
馬のたずなをにぎり海岸をかける暴れん坊将軍
人情にあつく庶民のなかにまぎれこむ。

ヨオ。日本一。

なんともアナクロチックで気恥ずかしいが、
がっしりした頼りがいのある男性に憧れます。

 

種をまく人

種をまく人